睡眠の質を上げる生活習慣とは?睡眠の質の重要性についても解説

現代社会において、良質な睡眠を確保することは健康維持や生活の質向上において非常に重要です。人によっては少し生活習慣を変えるだけで、睡眠の質を大きく改善できます。現在睡眠の質に悩んでいる方は、ぐっすりと眠れない原因や質を改善する方法について知っておくことが大切です。
この記事では、睡眠の質の重要性と、睡眠の質を向上させるための生活習慣について詳しく解説します。より質の高い睡眠を手に入れて、睡眠休養感をアップさせたい方は、ぜひこの記事をご一読ください。
1. そもそも「質の良い睡眠」とは
質の良い睡眠とは、「睡眠休養感」を感じられる睡眠のことです。睡眠休養感とは、睡眠で十分に休養がとれている感覚を指します。
睡眠時間が十分に確保できていても、眠りが浅くなったり中途覚醒が起きたりすると睡眠休養感が低下し、十分に睡眠がとれていないと言うことになります。
2019年の時点における、20~59歳の働き盛りの世代のうち「睡眠で休養がとれている」と答えた方の割合は70.4%です。およそ3割の方が睡眠で十分休養がとれていないことから、政府は2032年までに睡眠で休養がとれている働き盛り世代の割合を75%まで増やす目標を立てています。
(出典:厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」)
1-1. 睡眠の質の重要性
睡眠は心身の回復を促す行動です。睡眠の質を高めることは、生活の質向上や健康維持につながります。特に子どもの場合は発育や成長にもよい影響を与えます。そのため、老若男女を問わず睡眠の質を高めることが重要です。
もし、睡眠の質が低下すると日中に眠気が起き、集中力や意欲、記憶力などが低下します。疲れやすさも感じるようになり、日常生活の活動全般にとって悪影響がでます。
また、睡眠の質の低下によって自律神経が正常に機能しにくくなります。結果として、ホルモン分泌の異常や血行不良などが起こり、健康リスクが高まります。たとえば、睡眠時無呼吸症候群によって夜間に頻繁に呼吸が止まると、血管収縮・炎症・代謝異常など、生活習慣病の前段階の症状が出始めます。
(出典:e-ヘルスネット「睡眠と生活習慣病との深い関係」)
これまでも、睡眠時無呼吸症候群や不眠症の人は、生活習慣病を発症しやすいと言われていました。近年では研究が進み、実際に高血圧や脳血管障害、心不全などの心疾患につながることが分かっています。
くわえて、精神面の健康維持も難しくなり、うつ症状などが出るおそれもあります。心身の健康を損なわず、健康に生活するためには睡眠の質を高めるのが重要です。
2. 睡眠の質が悪くなる原因
睡眠の質が悪くなる原因は日常生活の中に潜んでいます。ここでは、睡眠の質に影響する要素について、3つの観点に注目して紹介します。
生活習慣
生活習慣の乱れは、体内時計を乱れさせ、睡眠の質を低下させる要因の1つです。就寝時間と起床時間が不規則な場合は、特に体内時計が乱れやすくなります。喫煙や飲酒の習慣も、睡眠の質の低下を引き起こします。
ストレス
ストレスは、自律神経が不調を引き起こす要因です。就寝時は鎮静を促す副交感神経を優位に働かせたいタイミングです。ストレスが原因で自律神経が乱れ、就寝時に、興奮を促す交感神経が優位に働くと睡眠の質は低下します。
寝室の環境
寝室が明るいと体内時計が乱れ、睡眠の質が低下する原因になります。寝具や寝間着が心地よくないと熟睡できません。寝具の中でも特に枕は影響が大きく、枕が合わずよく眠れないというケースも多々見られます。また、寝室の温度は一般的に18度~22度・湿度(40~60%)が適しています。
日中の活動から就寝時まで、上記の問題を引き起こす原因はさまざまです。そのため、睡眠の質を向上させるには多角的な観点から改善を考えることが大切です。
3. 睡眠の質を上げるために見直したい生活習慣
睡眠の質を上げるためには、まずは生活習慣を見直すのが有効です。ここでは以下の出典にもとづいて、睡眠の質向上につながる生活習慣を解説します。心身ともに健康的な生活を送るための参考にしてください。
(出典:e健康づくりネット「知っているようで知らない睡眠のこと」)
(出典:e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」)
3-1. 就寝前は食事をとらない
おなかがいっぱいになると眠くなる一方で、睡眠の質は低下します。
満腹状態で分泌されるレプチンには催眠効果がありますが、主な役割は内臓を活発に動かして食べ物の消化を促すことです。体が一部でも活発に動いている状態では、催眠効果で眠気を感じても良質な睡眠をとれなくなります。
空腹でどうしても眠れない場合は、消化が難しい油ものを避け、スープ類など消化のよい食べ物をとると、空腹も内臓の活発化もある程度抑えられます。ただし、覚醒作用の強いカフェインや利尿作用のあるアルコールは睡眠の質を低下させるため、就寝前の摂取を避けてください。
3-2. 眠る2~3時間前に入浴する
入浴は眠る2~3時間前にはすませておき、就寝直前には入浴を避けることが大切です。人間が眠くなるときは体温が低下します。そのため、入浴で体温を一時的に上げ、就寝時に体温が下がるようにすると睡眠の質が上がりやすくなります。反対に、就寝時に体温が高いままの場合、交感神経が優位に働いてなかなか寝付けません。
また、睡眠の質を意識するのであれば、お湯の温度はぬるめがおすすめです。38度程度のお湯に20~30分ほどつかると、副交感神経が優位に働きやすくなります。睡眠の質を上げるには、特に体の深部の体温を変化させることが大切です。体を芯から温めるためにも、ぬるめのお湯にじっくりつかるようにしてください。
3-3. 毎日同じタイミングで起床する
平日の寝不足を解消するために、「寝だめ」をすることで起床のタイミングがずれると、体内時計が乱れて睡眠の質が低下します。近年、日によって生活リズムが狂う現象は「社会的時差ボケ(ソーシャル・ジェットラグ)」と呼ばれ、睡眠の質を低下させる原因として問題視されています。
ソーシャル・ジェットラグは、特に平日と休日の間で起こりやすい現象です。平日も休日も同じ時間に起床できるのが望ましい状態ですが、難しい場合は起床時間のずれを2時間以内に抑えるように心がけてください。2時間以上起床時間がずれると、体内時計の修正が難しくなります。
ただし、起床時間を意識しすぎると睡眠時間が確保しにくくなるので、平日は就寝時間を30分程度早めるのも1つの方法です。また、時間にゆとりのある休日は、1度時間通りに起きた後、30分程度の昼寝で睡眠時間を確保することもおすすめです。
3-4. 日中に適度な運動をする
日中に適度な運動を行うと脳と体がほどよく疲れ、疲労回復のために夜の眠りが深くなります。適度な運動としては、ウォーキング・ランニング・水泳・ストレッチなど、全身運動を30分~1時間程度行うのがおすすめです。
種目や運動強度は、無理なく続けられる程度のメニューを選んでください。特に普段から運動し慣れていない人が強度の高い種目を行うと長続きせず、習慣化が難しくなります。
また、運動はできるだけ日中に、遅くとも就寝時間の3時間ほど前までに行ってください。入浴と同様、就寝直前に運動すると脳や体の働きが活発になり、かえって眠れなくなる可能性が高まります。
3-5. 毎朝太陽の光を浴びる
朝に太陽の光を浴びることで体内時計のずれをリセットする効果が期待でき、睡眠の質を向上させやすくなります。
人間が眠気を感じる理由の1つが、メラトニンと呼ばれる物質です。メラトニンは、日中に生成されたセロトニンから生まれる物質で、セロトニンは太陽の光を浴びると生成されます。つまり、日中のセロトニンの量が多いほどメラトニンが増え、夜の眠りが誘発されるようになります。
セロトニン自体も「幸せホルモン」と呼ばれ、精神を安定させる効果があるため、ストレスの観点から見ても睡眠の質を上げるのに役立ちます。在宅勤務などで朝に家から出ない生活をしている人でも、カーテンを開けるなどして朝の光を室内に取り込んでください。
ただし、夜にも照明などで明るい光を浴び続けていると、体内時計がずれやすくなります。朝の太陽を浴びても効果が薄まるため、夜はできるだけ照明を落として過ごしてください。特に就寝直前にスマホやパソコンを見るのは避けて過ごすのがおすすめです。
まとめ
睡眠の質を低下させる原因は、生活習慣の乱れやストレス、寝室の環境など多岐にわたります。これらの要因を改善することで、良質な睡眠を得やすくなります。
例えば、就寝前の食事を控え、適度な運動を行い、毎朝太陽の光を浴びる習慣が効果的です。また、規則正しい生活リズムを保ち、リラックスした状態で同じ時間に就寝・起床してソーシャル・ジェットラグを防ぐのも睡眠の質向上に大切な習慣と言えます。

監修者プロフィール
福井 直樹 先生
理学療法士
学校法人響和会 和歌山リハビリテーション専門職大学 教員
(一社)日本物理療法学会 理事
(一社)日本理学療法学会連合日本物理療法研究会 評議員